最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
陽芽との出会いのプロセスを思い出し、苦笑する。

詐欺に遭い全財産盗まれたことは同情するが、そのおかげでイザベルに会えたのだと思えば、そう悪くはない。

「ねぇ志遠さん。昨夜の質問、覚えていますか? 『ほしいものはなに』って」

「ああ」

「考えてみたんですけど、やはり今の私は幸運すぎて――」

彼女は困ったように笑って、くしゃりと目もとを歪める。

「ほしいものなんて見つかりませんでした」

彼女の返答にごくりと息をのむ。かつての母の言葉が脳裏をよぎり、背筋に冷たいような熱いような衝撃が走り抜ける。

――【なにもほしくない】と答えた女性が、きっとあなたを幸せにしてくれる――

「……言葉遊びだ」

思わず言い訳のようにつぶやいてしまう。

「なにか言いましたか?」

「……いや」

ごまかすようにワインを飲み干し、認めたくない感傷から目を逸らした。



その日の夜。陽芽の恋人について調査結果が届いた。

想像通りの報告に、俺は陰鬱なため息をつく。これを陽芽にどう伝えたらよいだろう。

リビングのソファに座っていると、シャワーを浴び終えた陽芽が部屋着にガウンを羽織ってやってきた。

< 111 / 272 >

この作品をシェア

pagetop