最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
騙されたショックを自分へのふがいなさに変換してしまったようだ。

むしろ見ているこちらが悔しくなってくるほど、彼女の反応は潔い。

「早くわかってよかったのかもしれません。もし私が山内さんのことを大好きになっていたら、もっともっとつらかったと思うので。うん、きっとこれでよかったんです」

彼女なりの納得の仕方をして、へらっと歪な笑みを浮かべて見せる。

「君は……どうしてそういう……」

出会ったときもそうだった。詐欺に遭い全財産失っても、自らの不運を受け入れ、早くも目の前にある幸運に目を向けていた。

遺影を抱きしめ、戻ってきてよかったと笑っていた。パスポートやクレジットカード、携帯端末を失ったというのに。

「もっと落ち込んでもいいんだぞ。つらければ泣いても――慰めるくらいならしてやる」

「ですが、母を失ったとき以上につらいことなんてありませんし」

ああ、と俺は腑に落ちた。彼女は人生で一番つらく苦しい瞬間を乗り越えてしまったのだろう。だからこんなにも達観しているのか。

だからって、騙されて心が痛まないというわけではないはずだ。

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