最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
きちんと怒ってほしい。泣いて悔やんで、もう二度と悪辣な輩に騙されないように自衛の術を身につけてほしい。

「もっとしっかりしてくれ。きちんと人を疑って、他人を見極める目を持ってくれよ。でなきゃ俺は――」

心配で、君のそばを離れられないじゃないか。

飛び出そうになった言葉に俺自身、ハッとさせられる。

陽芽も考えるところがあったようで、パチッと目を見開いた。

「志遠さん、わかりました。私がほしいもの」

「は?」

「人を疑う心がほしいです」

「そんなもの――」

違う、そういうことではないと俺はかぶりを振る。

そんな価値のないものをほしがらなくていい。猜疑心なんて望んで与えられるものではないのだから。

他人を疑ってばかりで誰も愛せない、がんじがらめの自分を顧みて、彼女にはこうなってほしくないと切に願った。

「そんなもの、ほしがらなくていいんだ……」

仮に彼女が慎重で強い猜疑心を持つ人間だったとしたら、今日起きたような奇跡的な出会いは訪れなかっただろう。

彼女の幸運は、その純真さゆえ。他人を疑わない清い心は、神から与えられたギフトだと思う。

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