最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
志遠さんが気を遣って観光を勧めてくれたのだから、精いっぱい楽しまなければ失礼だ――と理解してはいるものの、なかなか切り替えられずにいる。

「また新しい恋人を作ればいいじゃありませんか。ヒメはかわいいので、きっとすぐに素敵な男性と巡り合えますよ」

「ありがとうございます、ダリル。あの、志遠さんには、私は元気で全然落ち込んでないって報告してくださいね?」

「了解しました。大丈夫ですよ、今日も素敵な笑顔がたくさん撮れていますから」

そう言って携帯端末の画面を見せてくれる。

今日も写真の中の私は笑顔で幸せそうだ。この表情を作り出してくれた志遠さんには頭があがらない。

「こんなによくしてもらって。私、志遠さんにどうやってお返しすればいいんだろう……」

ぽつりと漏らすと、ダリルはにっこりと微笑んだ。

「存分にロンドンを満喫して帰国してください。シオンのことはいい思い出に。それが彼の望みです」

胸の奥に山内さんのこととはまた違った嫌なもやがかかり、私はきゅっと手を握りしめる。

明日はアルフォード伯爵家のパーティーだ。それが終われば、翌日には帰国することになる。

< 124 / 272 >

この作品をシェア

pagetop