最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「いいっ……行かなくていいです!」

なんとなく怖くなった。その部屋のドアを開けたら、志遠さんとエレノアさんがいる気がして。見てはいけないものを目にしてしまう気がして。

「ヒメ?」

ダリルは怪訝な顔で足を止める。

そのとき。かちゃりと鍵の開く音がして、隣の部屋のドアが開いた。

中から出てきたのは志遠さん、そしてエレノアさん。志遠さんはネクタイを締め直すような仕草をしていて、エレノアさんはドレスの肩が外れている。

……服が、乱れてる?

「陽芽!」

私たちの姿に気づいた志遠さんが、声を上げてこちらにやってきた。

背後でエレノアさんが勝ち誇ったような笑みを浮かべ、螺旋階段を下っていく。

「……賭けは俺の勝ちですね」

ダリルのつぶやく声が聞こえる。

「陽芽、外してすまなかった。……サロンに行こうとしていたのか?」

志遠さんに尋ねられ、私は曖昧に「ええ……」と答えた。なぜか視線を合わせることができなくて斜め下を向く。

「陽芽?」

私の態度をおかしく思ったのか、志遠さんが不思議そうな声をあげるけれど、その理由を口にすることはできなかった。



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