最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
この一週間、あまりにもいろいろとありすぎて疲れていたのか、空を飛ぶ恐怖など感じる間もなく眠りに落ちてしまった。

……いや。きっと彼が隣にいてくれたことで安心できたのだろう。

目を覚ます頃にはすでにフライトの半分が終わっていて、あとの時間は彼と他愛ないおしゃべりをして過ごした。



志遠さんは日本にも秘書や運転手がいるらしい。空港を出ると迎えの車が待っていて、私を家まで送り届けてくれた。

「これが陽芽の家か」

平凡な単身用マンションを、志遠さんは物珍しそうに眺める。

「狭いなんて文句言わないでくださいね」

「一応相場は知っているつもりだ」

私は志遠さんを連れて一週間ぶりの自宅に足を踏み入れる。

旅行へ行く前と変わらない部屋。ベッドの上には私の部屋着がくしゃっと丸まっていて、恥ずかしくなりクローゼットの中へ放り込む。

「今、お茶を煎れますので――」

「いや、いい。そろそろタイムリミットなんだ。すまない」

帰国の時間が近づいているのだと知り、私は形容しがたい虚しさに襲われる。

「君のお母様に挨拶だけしていく」

「ありがとうございます、ちょっと待っていてくださいね」

< 173 / 272 >

この作品をシェア

pagetop