最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
志遠さんが英語でなにかをつぶやく。なんと言ったのかはわからなかったが、あまりよくない意味のような気がした。

「でも、私には家族が必要かなって思ったんです。他に身内もいないし……」

「陽芽……」

志遠さんが深刻な顔で黙り込んでしまう。しまった、重い空気にするつもりはなかったのだけれど……。

「まだ知り合って間もないですが、とても優しい人なんです。だから私、素敵な家族が作れるようにがんばります!」

志遠さんは腑に落ちない顔でビールを口に運ぶ。グラスを置くと、あらたまって私に向き直った。

「陽芽。君はその男の優しさが気に入ったと言うが、相手は君のどこが気に入ったんだ?」

「それは……」

言われてみれば、山内さんは私のどこを見て結婚したいと思ってくれたのだろう?

「陽芽。優しいだけの男にはあまり期待しない方がいい。裏がある」

重たい声でそう言い置くと、志遠さんはグラスを空けた。

「とにかく今はその男のことは忘れて、母親の孝行に専念するといい。俺がなんとかしておくから」

引き続き山内さんのことを探してくれるようだ。私は「ありがとうございます」とお礼を言って、彼にならいサイダーを飲み干す。

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