最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「――くく。あっははは」

思いのほか笑われて、私は目をぱちぱちと瞬く。

「そんなことも知らなかったのか」

「そ、そこまで笑います!?」

そりゃあ、幼い頃から英国に住んでいた彼にとっては常識的なことかもしれないけれど――と文句を言いかけて、私は「ん?」と眉を寄せる。

あまりにも笑い続ける彼を見ていると、それだけのことで笑っているとは思えない。

「君みたいな女性は、これまで会ったことがない」

「失礼な、そりゃあちょっと抜けているところはあるかもしれませんが――」

「自覚しているよりずっと陽芽は抜けているよ。まったく――」

不意に志遠さんの手が伸びてくる。私の頭に触れてポンポンと跳ねた。

「放っておけないと思わせる――これは君の才能かもしれない」

「志遠さん……?」

彼にこうして頭をなでられるのは何度目か。

今考えると、彼にとってのこの仕草は、親愛の気持ちが含まれているのだとわかる。

言葉では罵られつつも、あまり悪い気がしない。

志遠さんはリーフ缶を受け取り一階のダイニングルームへ向かった。

大きな窓にカーテンはないが、木々と高めの塀が私たちの姿を隠してくれている。まるで箱庭のようだ。

志遠さんとふたりきりの空間であることを思いがけず実感する。なんだかとても穏やかな夜だ。

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