最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
とはいえ、隙がありすぎるのは問題だと言える。

親孝行のためにわざわざ異国の地を訪れ、全財産盗まれ、絶望したかと思えば遺影が返ってきたと喜んでいる。なんと楽観的なのだろう。

母親思いの、心優しい女性であることはたしかだが。

食事中、俺がテーブルに置けと指示した遺影を見て、涙をこらえていた彼女を思い出す。

こんな女性は見たことがない。他の女性とはあきらかに違う異質さに興味を引かれ、わざわざ家に置いている。

彼女でなければ、ここまで世話を焼いたりしなかっただろう。適当に金を渡し、高級ホテルに放り込んでおいたはずだ。

最悪、翌日の航空チケットを手配してさっさと帰国させていたかもしれない。

……わけがわからないな。

彼女のことがさっぱりわからない。と同時に、彼女のことをここまで気にかけている自分自身がわからない。

理解の及ばない事象は人間にストレスを与えるものだ。

自宅に帰った俺は、こちらの気も知らないでにこにこ笑っている陽芽と、陽芽を飼いならしたとでも言いたげなドヤ顔のダリルに、ついお小言を言ってしまった。

……まるで子どものようだ。騎士の名が聞いてあきれるな。

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