迷彩服の恋人
「そうですね。……外出許可は要りますね。でないと、俺達は駐屯地(ちゅうとんち)から出られませんから。」

中崎さんが発した言葉に、〝若手2人の女子〟は相槌(あいづち)を打っている。
ちなみに。志貴さんと結花先輩は、私達の話も聞きつつ…お互いの近況を話していた。

「…あぁ。あと、結花が…"リョ"とか"ジョウキョウショウアク"とか… "サンソウ"って言葉も言ってました。それはどういう意味ですか?」

私は積極的に会話に参加しないけど…結花先輩が言った言葉は気になるから、箸を進めつつ土岐さんからの返答を待った。

ここで結花先輩が、紙とボールペンを土岐さんに渡した。

それを受け取った彼は…「さすが桧原さんですね。」と笑う。

「"リョ"と"ジョウキョウショウアク"は、読んで字の如くですが…。 "リョ"は"了解"を簡略化したもの。"ジョウキョウショウアク"とは【状況掌握】と書くので…【状況は掴めているか。】の意味になります。また"サンソウ"は"3曹"と書き、自衛隊の階級の1つです。正式には、3等陸曹と言います。」

そっか、"曹"って階級だったんだ。じゃあ…たぶん"リクシチョウ"っていうのも階級ね。

そんな風に自分の考えを巡らせていると、土岐さんが自衛隊の16階級すべてを書き出して説明してくれた。

だけど、花村さんが失言してしまったことで…場の空気が一変する。
あまりにも軽く…年収のことを尋ねてしまったのである。

もちろん。お付き合いしたり、結婚するというなら知っておくべきだけど…今日はまだその前段階だ。
あまりに失礼で、私と結花先輩は…開いた口が塞がらなかった。

「すみません。志貴さん、少し酔い覚まし…一服してきていいですか?」

「あぁ、行ってこい。」

「えっと…煙缶(えんかん)、煙缶…あー。忘れてきたかな…。」

「何?土岐。お前、煙缶忘れてきたの?…俺の持ってけよ、ほら。」

"エンカン"って何?…と思って土岐さんと志貴さんの様子を見ていると、志貴さんが携帯用の"灰皿"を渡していた。

そして、土岐さんは「ありがとうございます、お借りします。」と言ってそれを受け取り、外へ出ていった。

土岐さん、煙草(たばこ)吸われるんですね……。


彼の背中は…疲れているような気がした――。

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