アゲハ蝶は、クローバーを一人占めしたい
大学が終わり、四葉を送り届けた鳳雅。
自宅に帰り、自室のベッドに寝転んだ。

そして自分の左足を高く上げた。

左足に光る、アンクレット。
四葉とペアだ。

四葉には内緒だが、実はペアのアンクレットの片方をつけさせたのだ。

「揚羽は、勘づいてたみたいだったな……」
ボソッと呟く。

それでもいい。
どんな形でも、四葉と繋がれているようで嬉しい。



一方の揚羽は、自室のシャワーを浴びていた。

拳を握りしめて、頭からシャワーをかぶる揚羽。

四葉の左足に光る、鳳雅とペアのアンクレット。
自分から目をそらす四葉。
“婚約者”という言葉の強調。
鳳雅の、少し勝ち誇った表情。

全てに、とてつもない嫉妬と苛立ちを覚えていた。


あの場で鳳雅を殺してしまえば良かった━━━━━


「あー、ダメだ……!」
つい、言葉が声に出る。

そんなことしてしまえば、四葉に会えなくなる。

鳳雅には、いてもらわないと色々と面倒だ。


「あーーー!!
………っくそっ!!!」

ガン!!と、目の前の鏡を殴る。
パリンと音をさせ、鏡にヒビが入った。

揚羽の拳が切れ、血が流れる。
しかし痛みなんか、全く感じない。

それよりも、心の方がよっぽど痛い。


四葉の心は自分“だけの”モノなのに、どんなに頑張っても四葉が手に入らない。

愛し合ってる者同士が、恋人同士になること、夫婦になること━━━━━━

これは、ごく普通のことなのに、揚羽と四葉には通用しない。

揚羽と四葉は愛し合ってるのに、夫婦はおろか、恋人同士になることも許されない。

ただ会いたいだけなのに、隠れてじゃないと会えない。

どうして、こんなに苦しまないといけないのだろうか。
ぶつけようのない嫉妬心と苛立ちだけが、揚羽に襲いかかり苦しめていた。


「僕だって、四葉が手に入るなら“都筑 揚羽”の名前なんて、いつでも捨てるのに……」


シャワーを終え部屋に戻ると、テーブルに置いているスマホのライトが光っていた。
確認すると、四葉から着信とメッセージが入っていた。

『声聞きたかったけど、寝てたら起こすの嫌なので、メッセージ残しておくね。
今日は、たくさん傷つけてごめんなさい。
でも私は、揚羽くんだけが好きです。
一日でも早く、覚悟を決めるからもう少し待っててほしいな。
あと、アンクレットだけど、鳳雅くんには絶対外すなって言われたんだけど、なるべく外すようにするね。
鳳雅くんに会う時だけ、つけるようにする。
あ、でも!このことは鳳雅くんには、内緒ね!』

このメッセージを、ゆっくりなぞる。

少しだけ、傷が癒えた気がした揚羽だった。
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