アゲハ蝶は、クローバーを一人占めしたい
「あ、あの…」

『四葉が僕を受け入れてくれるなら、今すぐに四葉をさらいにいく。
ご両親の反対なんて関係ない。
四葉を絶対に放さない』

「揚羽くん」

『ん?』

「私……」

『四葉』

「え?」

『いいんだよ。はっきり言って』

揚羽はきっと、四葉の気持ちをわかっている。
それでも、四葉の口からはっきり振ってほしいのだろう。

「ごめんなさ……私は、揚羽くんを……」
『うん』
「受け入れ……られ、ない……」
『うん。わかった』

「ごめんなさい」
『ううん』
「ごめんなさい」

『言ったよな?僕は、四葉が幸せになる為なら何でもするって』
「ごめんなさい」

『四葉』

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

『もう…謝らないで?
僕は、四葉の為ならいくらでもどんな辛いことでも耐えられる』


揚羽は最後まで、優しく四葉を慈しむ。

本当は、責めてもらった方が気は楽だ。

揚羽の優しい言葉と声が、四葉を苦しめていた。


「………」
四葉は謝る言葉も出なくなって、ただスマホを握りしめていた。

『四葉。
僕は明日から、組に入るから大学を辞める。
もう…四葉には、会わない。
電話もしない。
ごめんな。
四葉の声を聞いたり会ったりすると、連れ去りたくなるんだ。
だから、四葉の前から消えようと思ってる。
でもかげから、四葉を守るから!
僕は、ずーっと……四葉だけが大好きだよ。
それは、一生変わらないから』

その言葉を最後に、揚羽は通話を切った。
揚羽から通話を切るのは、これが初めてだ。

“電話は四葉が切って。
僕からは切れない。四葉と繋がってるモノを切るなんてできないから”

そう言って、いつも四葉が通話を切るのをひたすら待つのだ。


プープープーという音をしばらく聞いていた、四葉。
ずっと切れずに、ただずっとスマホを耳に当てていた。



そして揚羽も━━━━━━

しばらく、スマホを握りしめていた。

「なんで、さらいに行かねぇの?」
気づくと、毅蝶がドアを開け立っていた。

「四葉が、僕を受け入れられない。
さらっても、四葉を不幸にするだけだ」

「へぇー、四葉の本当の不幸はどっちなんだろうなー?」

「は?」

「お前の傍にいる地獄と、傍にいない地獄。
本当の地獄は、どっちってことだ。
ちなみに恵実…お前の母さんは、俺の傍にいられない方が地獄だって言ってた。
最期に……貴方の傍にいれて“幸せ”だったって言ってくれた」

「………」

「揚羽、俺がお前なら……確実にさらいにいく。
四葉は、お前じゃないと“幸せ”になれないから」
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