離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~

「……あの、どうせ離婚するので……わざわざ紹介することはないと判断されたと思って……」


 口をキスで塞がれた。

 そのまま、今度は舌で口内を撫でられていく。さっきより激しく、ずっといやらしい仕草で──

 お互いの唇から零れる水音が、狂おしいほど感情を掻き立てる。

 好きだと。
 どうしようもなく──大好きだって、思ってしまう。

 前より、再会する前より、ずっと好き。

 綺麗にお別れしたいのに、育ち続ける恋心が辛くて苦しくてたまらない。


「風香」


 酸欠になりそうなほど貪られて、クラクラと彼の身体に全ての体重を預けている私に、永嗣さんは言う。


「無理矢理にでも調整させるから、近々に俺の家族に会ってくれないか」

「──え?」

「それまでに指輪も買おう。婚約指輪を。……結婚指輪はオーダーしたいから、式までの完成で構わないかな?」


 私は目を瞠る。


「指輪、でも、その」

「決定事項だ」


 そう言って彼は私をベッドに組み敷いた。


「でも、もう、結婚していますし婚約指輪なんて」

「……俺の両親に不審がられないため、と言ったら受け取ってくれるか?」

「……あ」


 私は納得して頷いた。たしかにそれはあるかもしれない。永嗣さんくらいの人が、指輪も無しにプロポーズするとは考えづらい。

 頷く私を、満足そうに永嗣さんは見つめる。
 そんな永嗣さんの整った眉目を見つめながら、私はもうひとつ、気になったことを口にする。


「式って。それは結婚式ってことです、か……?」


 離婚するのに?
 そんな思考を読んだのか、永嗣さんが私の眉間にキスを落としながら言う。


「きみの同僚に約束もしたしな」

「そんな」


 私は首を振る。


「私、それは、永嗣さんが本当に大切な人と経験してほしくて!」


 結婚式も、指輪も、……そんな大切なことは全部、あなたの大切な人と──!
 想像するだけで、身体が、心が、千切れ落ちてしまいそうだけれど。


「きみは俺の妻だ。きみ以上に優先し大切にする人間なんかこの地球上に存在しない」


 永嗣さんはそう言い切って、私の手を握る。指と指を絡める、大人の繋ぎ方で。


「風香」


 彼が私の名前を呼ぶ。
 そこに狂おしいほどの切なさが混じっていたような気がして、そんな自分に都合の良い妄想で──私は胸が苦しくなった。

 私たちは、仮初の夫婦なのに。

 それ以上のなにかを期待なんか、してはいけないのに。
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