妄想腐女子の恋愛事情  倉橋琴音と影山海里

転職問題

「倉橋さーーーん、ゴミ出してくれる?」

窓口の外で、清掃担当のおばちゃんが、手を振っている。
琴音は一気に、現実世界に引き戻された。

「ああ、こんばんは」
琴音は本を素早くバックにしまい、窓口に小走りで向かった。

「ねぇ、聞いてる?噂なんだけどさ、
ここのカルチャースクール、
来年度限りで閉めるって話!」

「いえ、まだ・・」
琴音は正社員ではない。

派遣だ。
いつ切られても、文句は言えない。

「生徒さんが集まらなければ、
家賃がかかるから、撤退するらしいって」

「そうなんですか・・・」

清掃担当のおばちゃんは、結構な情報通だ。
色々な所に、出入りもするからなのだろう。

「倉橋さんも、早く別の仕事、
見つけたほうがいいわよ。
あなたはまだ若いのだし」

おばちゃんはニィっと笑って、
「事務所のゴミちょうだい。
一緒に捨てるからさ」

「いつも、ありがとうございます。
お願いします」

琴音は軽く頭を下げて、
シュレッダーのごみの袋を
持ち上げた。

おばちゃんが立ち去ると、
琴音はため息をついた。

脳内妄想を、楽しむ余裕がなくなった。
また、職探しをしなくてはならないのか。

トキと香山教授のBL世界は、
現実にはもろく敗れる。

不安が、モクモクと黒雲のごとく広がる。
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