隠された彼の素顔

 ショーの余韻に浸ってから、帰ろうと腰を上げたところで、スタッフの方に声をかけられた。

「よくいらしてますよね。どなたかのファンなんですか?」

「あ、いえ、その」

 口籠もりながら「レッドさんに、以前親切にしていただいたので」と理由を口にする。

「そうだったんですね。レッドはみんなのヒーローですからね」

 にっこり微笑むスタッフの方に、惨めな気持ちになった。

 そうだよ。彼はレッドだもの。みんなのヒーローだ。

「僕、緑川って言います。こう見えてグリーンやってるんですよ」

 口元に手を当て、私にだけ聞こえる声で思わぬ事実を告げられた。もしかしたら、気落ちしたのを察して、元気づけようとしてくれたのかもしれない。

 だって、名前と役名にシャレが効いている。

「ふふ。名前、役のままなんですね」

「ええ。よく言われます。レッドも……」

「え?」

 ドキッとして、顔を上げる。

「あ、いや。本人に聞いてみてください」

 そう言い残し、緑川さんは去っていく。

 バクバクと速い心臓。

 馬鹿ね。レッドの名前を聞いたところで、肝心の癒しのきみの名前は知らないのに。

 中に入っている人が、全くの別人と知れば笑い話になるのかな。

 そんなことを思いながら帰路に着いた。
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