隠された彼の素顔

赤石(あかいし)博己(ひろみ)さん、ですよね?」

 俺は脱ぎかけているマスクに、もう一度手をかけようとしていた。

 しかし突然名前を呼ばれ、驚いて彼女を見つめる。未だほとんどがレッドのままの姿で。

 彼女は静かに話し始めた。

「あなたを知りたくて、テレビの方も見たんです。今の戦隊戦士以外のものも、たくさん。ごめんなさい。ちょっと、気持ち悪いですよね」

 俺は首を振る。

 知りたくて見る。簡単に言うけれど、映像を確認したところで俺は顔を出していない。

 そもそもクレジットというなんの役が誰なのかの記載は、詳しく書かれる方が珍しい。スーツアクターのクレジットは役名は書かれずに数名でまとめられ、最後に所属する事務所名が書かれている程度。

 映画に出演するなど、大きな役の場合には《なに役のスーツアクター:役者の名前》という表記をされる場合もあるが、本当に稀だ。

 それに、顔出ししていないのだから、映像を確認したところで、どの戦隊戦士が俺かわかるはずはないわけで。

 だからどうして"赤石博己"が俺の名前だと思ったのか、見当もつかない。

「だいたいがレッド役でしたね。すごくかっこよくて。あ、いえ、あの。本人を前に、恥ずかしい」

「どうしてわかるんだ。そういえば、今回も」

 俺は緑川さんが俺のためを思って彼女を呼び、グリーンが俺だと事前に教えていたのだと思っていた。

 俺に向かってベランダの観葉植物の話をしていた気がしたけど、そんなはずないと、はなから信じていなかった。
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