モナムール



*****


「いらっしゃいませ」


「こんばんはマスター」


「お久しぶりですね。お仕事忙しかったんですか?」


「まぁ、そんなところ。最近仕事が上手くいかなくて」



dernierのドアを開けた時の、いつもと変わらないマスターの笑顔を見たらなんだかホッとした。


実家に帰ってきた時と同じ安らぎを感じるのは、きっとマスターの人柄の良さだろう。


今日は私の他にはまだ誰もいないようだ。


いつも通り奥の席に座り、キープしてあるボトルを頼み、グラスに入った琥珀色をじっと眺める。



「……中野さん?どうかしました?」


「……今日、あの人に久しぶりに会って」


「あの人って……例の彼ですか?」


「うん。……なんか、幸せそうでホッとしちゃった」


「そうですか」



普通なら、好きな人が他の人を想って幸せそうな顔をしているなんて、嫉妬したり落ち込んだりしてもおかしくないだろう。


でも、私は今日鷲尾さんに会って、どこか吹っ切れたような気がしていた。



「別に気持ちを伝えたわけでもないし、何かあったわけでもないけどさ。……なんか、あの時のどん底まで沈んでた顔から、ちゃんと明るい顔になってるの見たら、安心しちゃった」



鷲尾さんの笑顔なんて、どれくらいぶりに見ただろう。


表情を無くして仕事に邁進していた姿を思い返すと、今の幸せそうな姿が見られただけで私は嬉しい。


なんて、思い出したら少し泣きそうになってしまい、ツンとする鼻を押さえながら笑顔を作る。


するとマスターがグラスの隣にチョコレートを置いてくれた。


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