儚く甘い
ちゃんとつかんだはずのコップが手からすり抜けた。
この感覚は初めてじゃない。

達哉から水の入ったペットボトルを預かろうとして手からすり抜けたことがあった。

不安を悟られないように、違和感に気づかれないように繕う。
「ごめんね」
みわが椅子から降りようとすると、慌てて裕介と隆文が止める。
「ケガするからやめろ。裕介にやらせろ。」
隆文がみわの手をとめるふりをして、確認をする。
「なんだよ、やらせろって」
あきれたように笑いながら手早く片づけをした裕介。

何もなかったように母がもう一度オレンジジュースをコップにいれてみわに渡す。

「大丈夫か?」
隆文がみわの手を確認するように手を添える。
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