儚く甘い
母は毎年咲いている桜にも、何か父からのメッセージを感じるようで、足をとめるとなかなか動けなくなる。

「行こう」
みわが母の背中に手をまわして、父の元へ促すと母は名残惜しそうに桜を見ながら前に進みだした。

海の見える父のお墓。
隆文と裕介がお墓をきれいに掃除して、母が線香台をきれいにする。
みわは、買ってきた花をそなえる。

すべてが終わると、みなで手をあわせる。

母は一番長く手をあわせているのは昔から変わらない。

「行こうか」
毎年、長く長く手をあわせている母を、父とふたりにするのがみわたち兄弟の気遣いだった。
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