a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
「なるほど」

 周吾はそう言うに留まった。録音出来ていたのかいなかったのか、どちらにもとれる反応に、那津は不安になる。

「とりあえず元カレが言っていたアプリを消しておこうか」
「あっ、そうだった。どれかわかるの?」
「まぁね……でもステルス機能がついてるやつかも……」

 ぶつぶつ言いながら操作していると、ようやく口元に笑みが浮かぶ。

「見つけた。消去していいよね?」
「も、もちろん! ありがとう、助かった……。たぶん一人じゃ無理だったから……」
「でもホテルの場所とかはバレてるだろうし、待ち伏せとかしてたりして」
「それはないんじゃないかな。だって帰るって言ってたし」
「そうかな……結構未練タラタラって感じに見えたけど」
「もしそれくらい愛してくれていたら、浮気なんかしないと思うもの」
「まぁ……でもどんな人間だって、魔が差したりするもんだよ」
「そうだとしても……やっぱり嫌……」
「あはは、だよね」

 下を向いた那津に、周吾はスマホを差し出す。

「録画の音声のこと、知りたい?」
「……知りたくない」
「じゃあ俺の心の中に留めておこう。それにしても、那津さんがやけに警戒心が強い理由がわかったよ。あの元カレじゃそうなるかもね」

 周吾が思い切り吹き出したため、那津は口を尖らせてそっぽを向いた。

「あぁ、それから俺の番号登録しておいたから、何かあったら連絡してね」
「……信じられない……」
「まぁお守り代わりだとでも思ってよ」

 お守りか……確かにさっき私を助けてくれた姿は頼もしかった。
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