a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜

「ねぇ、その音声って録れてたの?」
「そんなのわかんないよ。確認してないもん……自分の彼氏が他の女と寝てる時の声なんて、怖くて聞けない……」
「まぁそりゃそうだよね。じゃあ俺が確認してあげようか?」
「はぁっ⁈ な、何言って……」
「大丈夫。那津さんに結果は言わないからさ。ほら、スマホ貸して」
「えっ、い、嫌よ!」
「いいから、ほら」

 周吾は那津の手に握られていたスマホを奪い取る。

「暗証番号は?」
「……貸して。私がやる」

 スマホのロックをはずし、那津は躊躇いながらもフォルダを開き、あの日の動画を見つけると、スマホを周吾に手渡した。

 周吾は受け取ると、無言のままスピーカーを耳に当てる。彼の反応が気になりつつも、耳を塞いで寄せては返す波だけをじっと見つめていた。
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