a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
 瀧本さんも同じような経験があったということ? だから私のことを放っておけなかった?

「かなり落ち込んで『もう俺は恋なんかしない』って言い続けてたんだけど、なんか最近周吾が珍しく女の子を追っかけ回してるって聞いたから、すごい気になってたんですよ。まさか目の前に現れちゃうとは思わなかったけど。大丈夫ですよ。あいつはまんま信用出来るって、たぶんこの町に住んでる人ならみんなそう言うくらい真っ直ぐな男なんで。あっ、干物好きですか? 試食出しますけど」
「いいんですか? じゃあ是非」

 アジの干物を食べながら話していると、そこに周吾が到着する。那津と絢斗が仲良さそうに話している現場を目撃し、怪訝そうな顔で二人の間に立ちはだかると、絢斗を睨みつける。

「何故お前が那津さんと親しげに話してるんだ」
「えっ、ただのお客さんだってば。まぁお前の話もしたけど」
「はぁっ⁈ 何を話したんだよ」
「えっ、別に大したことじゃないよ。元カノサプライズ事件についてちょろっと話しただけ」
「なっ……!」

 周吾は青ざめた顔で那津の方に向き直る。

「……那津さん、なんか良からぬ考えとかになっていないよね?」
「良からぬって?」
「……いや、それならいいです」
「……『同じ境遇の私に同情で声をかけたんじゃないか』ってこと?」
「しっかり良からぬ考えしてるじゃない」

 那津が食べ終えたのを見て、周吾は彼女の手を握る。

「ここはもういい? そろそろ行こうか」
「う、うん……あっ、ご馳走様でした」
「いえいえ、また来てくださいね〜。周吾も強引だと嫌われちゃうよ〜!」
「放っとけ!」

 絢斗の笑い声が響く中、周吾は那津の手を引いて建物を後にした。
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