かぐわしい夜窓
1
それはきっと、幸運というべきものだった。

ただの村娘のもとに、紫の包みと、大きな馬車が届いた。


優雅に降りてきた大男が口を開く。


「失礼、サシェ殿ですか」

「……はい、サシェと申します」


虫の鳴くような小さい声でやっと返事をすると、全身見回して、年を尋ねられた。


「先日、十五になりました」


あの、なにか。言いかけて口を閉じる。


聞かなくてもわかっていた。

紫の包み、馬車、年齢の確認。この国で、意味を知らないものはいない。


ましてや白い正装は、神殿から来た騎士の証。ここまで揃えば、誰でもわかる。


「サシェ殿、お慶び申し上げます」


……いやだ。


「今代巫女さまに代わり、わたくしからお伝えいたします」


いやだ。


「あなたは新しい巫女さまに選ばれました」


……いや、だ。


顔に出さないように、必死に無表情を取り繕った。
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