かぐわしい夜窓
ばかな質問を飲み込んで、頭のなかに地図を描く。


「我が国だと、どの地方に行けば海が見られるのですか。勉強した記憶が正しければ、我が国は高い山と平地ばかりの山地だったかと思いますが……」

「ええ、そうですね。残念ながら我が国には海はありません。ですから、一番近くの海は隣国の海になりますね」

「隣国……!」


食べものが違う、文化も違う国。景色もがらりと違うはずの国に、一緒に海を見に行く——あまりにも甘やかな想像に、目眩がする。


「ね。遠い遠い、ところでしょう?」


歌まもりさまは、いたずらっぽく口の端を上げた。


「ええ。遠い遠いところですね。想像もつきません」

「私も一度行っただけですが、あまりによい眺めでしたのでよく覚えています。お役目が終わったら、ご一緒にいかがです?」

「ええ、ぜひ!」


お互い穏やかに笑い合った。お役目が終わったら、なんて、ずるい言葉だった。


遥けきいつかを描きましょう。

きっと叶わない約束をしましょう。

叶わないなんて知らないふりをして、信じているみたいな口ぶりで、いつかのさよならを和らげましょう。


わたくしたちは、十年間のお役目だけで繋がれている。


歌まもりと、歌うたい。

面倒を見る大人と、面倒を見られる子ども。


終わりの日、あなたはきっと、わたくしの隣にいないでしょうけれど。


いまだけは、遥けきいつかを描きましょう。
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