かぐわしい夜窓
4



巫女の花好きは知れ渡っている。今代巫女に捧げ物と言えば、花が定番である。


巫女の自室を飾り、入口を飾り、廊下を飾り、騎士たちの詰め所まで飾ってもあふれるようになり、あいていた部屋が捧げ物部屋になった。


そうして最近は、その部屋さえ手狭になっている。


「巫女さま、これはあまりに多いのでは。ご無理をなさっていませんか」

「いえ、お花のお世話をするのは楽しいので、こんなにたくさんいただけてありがたいです。これからも、できるだけわたくしがお世話をしたいのですけれど……」

「はい、よいお考えかと」


この娘が、普段何も言わない娘が、やりたいことを言った。ささいな願いに、頷く以外の選択肢がない。


巫女の手によって神殿中がうつくしく飾られ、花々が季節を教え、豊かな香りに満ちていく。

巫女がいるこの場所は、穏やかな時間の流れ方をしている。


捧げ物は巫女に手ずから飾られ、世話をされ、慈しまれ、大事にしてもらえるとあって、増えることはあれど、減ることはなかった。


巫女はいつも忙しなく花の世話をしながら、ぼうっと窓の向こうを眺めていた頃より幸せそうに笑っていた。


『わたし、花売りになりたかった』


くるくるとよく働く巫女を見るたび、消え果てそうな月明かりを思い出す。


……よかった。ここが、この娘が笑える場所になって、よかった。


私はあなたを花売りにはして差し上げられないが、この花々が、慰めになるよう。
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