これはきっと、恋じゃない。



 あのペアワーク以来、しっかりと王子くんとは関わっていない。だからあのときのことは、直接聞くこともできないまま、いまも謎に包まれている。

 でもやっぱり目立つから自然と目に入るというもので。

 体育の体力テストでは、少しでも動けば隣のクラスからの歓声がすごく、校舎の窓からもこっちを見ている子もいて、わたしと亜子ちゃんは遠目でそれを眺めていた。

 意外だったのは、王子くんはあまり運動が得意ではないらしいということ。

「なんか意外。ダンスめちゃくちゃうまいのに」
「それとこれとは別なのよ」

 すっかり定着した田中くんと松本くんの3人組で、王子くんはふざけ合っている。あんなふうに友達と笑うんだな、と思いながらあのときのことが頭をよぎる。
 
 ……結局、なにも聞けていない。

 あの日、なんで発表だけ来たの?
 そう聞いても、きっと王子くんのことだから『発表だからだよ』と言うだろう。

 この話はそれ以上でもそれ以下でもない。
 でも、わたしにとっては疑問がてんこ盛りだった。

 ……そこまでして来なくてよかったのに。
 図書館であの話を聞いていたら、なおさらそう思う。

 そのとき、「キャー!」という黄色い声援が聞こえてきた。何事かと思って見ると、どうやら50メートル走が始まったらしかった。

 王子くんは風を切りながらぐんぐんと走っている。足は速いみたいで、同じブロックで走っている子たちを抜かして行く。

「……でもまぁこのダッサイジャージも、着る人が変わればオシャレなセットアップに見えるね」

 走る王子くんを見ながらそう言うと、亜子ちゃんは大胆に吹き出してしばらく笑っていた。

「セ……セットアップ……って」

 ちなみにわたしたちの学年のジャージは真っ赤である。ダサいったらないのだけれど、少女漫画でよくある好きな男の子からジャージを貸してもらうあれみたいに、横に白のラインが入っている。

「制服かわいいのに、なんでジャージがこんなにダサいのかなぁ」

 良いところといえば、少女漫画が再現できるだけだ。
 ……王子くんがやってくれれば、尚更。
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