これはきっと、恋じゃない。


「なに?」
「出待ち! 門、出待ちいますっ」

 そう言うと、館町先輩は驚いたように目を瞬いた。そして、その眦を下げて微笑む。

「教えてくれてありがとう」

 軽く手を振りながら、館町先輩は階段を降りて行った。

「……出待ちって?」
「え、森山先輩知らないんですか?」
「全く。俺勉強して帰るから、帰るの遅いし」

 言いながら、森山先輩は生徒会室のドアを開けた。

「他校の女子とか一般の人が、門でセレピを待ち構えてるんです。わたしもこの間、王子くんたちいますかって言われて」
「うわ、まじか」
「最近人気が出てきて大変みたいですよ」
「そりゃ大変だな」

 ねぇ、と言いながら生徒会室に入ってぎょっとする。知らない顔がたくさんいたからだ。

「あっ! 森山先輩、館町くんとなに話してたんですか!?」

 ……いや、だれこの女の子。

「別になんでもないよ」

 森山先輩は少し困ったように笑うと、そう言ってごまかした。

 戸惑いながら、わたしは真悠先輩と香奈先輩が座っているあたりに向かう。いつも座っているところが、その子に座られていたからだ。

「やっほー千世ちゃん」
「おつかれさまです」

 よーし、と森山先輩が手を叩く。みんなの注目が集まる。

「とりあえず今日は、この間立候補してくれた子たちとの顔合わせからだな。自己紹介、は俺からやるか」

 よ! さすが生徒会長! と、3年の先輩たちが茶化す。

「3年2組、生徒会長の森山で、趣味はバスケです。よろしく! じゃあ、次は逢沢」

 え、わたし?
 いきなりだなぁ、と思いながら立ち上がる。

「2年4組の逢沢千世です。副会長やってます、趣味……は、ドラマ見ることです」

「え! 4組って王子遥灯と同じクラスですか!?」

 ……は、はい?
 いきなり上がったその声の方を向く。それはさっき、森山先輩に館町先輩となにを話していたのか聞いていた女の子だった。

「ま、まぁ……」
「えー! すごい!」

 え、ほんとなにあの子。
 そう思いながら座ると、真悠先輩と香奈先輩が苦笑していた。

「じゃあ次、中本」
「はーい」

 真悠先輩が立ち上がる。

「中本真悠です。3年5組で副会長です。よろしくねー」
「5組って、菅凪くんですか!?」
「あー、そうそう」

 真悠先輩が座る。目が合うと、その目が、なんだあの子、と語っていた。

 ……はじめて出会う人種すぎて、よくわからない。

 一通り今いるメンバーの自己紹介が終わると、森山先輩が「今度は新メンバーだな。副会長から頼む」と言った。

 新メンバーに生徒会長はいない。
 この学校の独特のシステムで、会長になるには1年生のころから生徒会メンバーであることと、元会長からの推薦が必要になる。

 だから自然と次期会長は、副会長から選ぶことになるし、こういう自己紹介は役職が上の人からになる。
 ……のだけれど。

「はい! 水野真帆です! セレピが好きで、この学校選んだのも館町くんと菅凪くんがいるからです! そしたら王子くんもいて、めちゃくちゃ嬉しかったです! セレピ好きな方と語りたいです! よろしくお願いします!」

 真悠先輩、香奈先輩、森山先輩、それからわたしたちの間で空気が固まった。

 ……いると思ってた。そりゃあ、そういう子くらい。
 でも、いざ出会うとなればびっくりしてしまう。

 今までの子たちとレベルがちがうから。
< 65 / 127 >

この作品をシェア

pagetop