これはきっと、恋じゃない。
全員の自己紹介が終わると、森山先輩がホワイトボードに『雨の音楽祭について』と書き始めた。
「そろそろ毎年恒例、雨の音楽祭の季節です」
「うわっ」
「ひー」
と声をあげるのは真悠先輩たちだ。
生徒会も長くいれば、この雨の音楽祭が如何ほどめんどくさい行事であるか知るというものだ。
雨の音楽祭。それは、秋にある学園祭と並ぶ英城高校の伝統行事。
毎年6月中旬、梅雨の季節にある音楽系のイベントで、合唱でも合奏でも、とにかく音楽にまつわる出し物を各クラスで考えて、発表する場。ちなみに平日開催。
「明日の委員会で告知して、来週のホームルームで各クラスに内容を決めてもらって提出することになってます。ちょっと忙しくなるけど、頑張っていきましょう」
「はーい……」
「雨の音楽祭って、そんなに大変なんですか?」
手を挙げながら、水野さんが訪ねる。その質問に答えたのは、真悠先輩だった。
「先生たち、ほとんどうちらに丸投げだからね」
そう。生徒会への信頼が厚いせいで、そこそこ仕事を丸投げしてくる。それはそれでありがたいのだけれど、実のところやめてほしい。
「それじゃあ過去の演目例を配ります」
演目は、音楽に関係するものなら自由だ。だからだいたいのクラスが手頃な合唱でいく。わたしのクラスも去年は合唱だった。
森山先輩がくれたプリントに目を通すと、1年生は合唱が多く、上級生になってくるとミュージカルやダンス、レビューなどが増えてくる。
「森山ってさ、館町くんと同クラだよね」
「おう」
「去年は館町くんって出てたの?」
「それ私も知りたいです!」
真悠先輩の質問と水野さんの声に、森山先輩は明後日の方を向いた。それからしばらく考え込むと、首を横に振った。
「いない、な」
「ええー!」
「だよね」
水野さんは見るからにガッカリしている。でもいたとしたら、学園中大騒ぎだっただろう。生徒会が手に負えないくらいになりかねない。
あの館町智成と菅凪晶が学校行事に参加なんて、レア中のレアというものだ。
「じゃあセレピは今年も休みかな」
「どうだろうな……」