罠にはまって仮の側妃になったエルフです。王宮で何故かズタボロの孫(王子)を拾いました。


 果たして、内輪で結婚式を終えた私は今、ルーファスと共に王宮の一室に住んではいるものの、通いで、リチャードの後宮で三度のご飯作りをしている。
 私が毒を許さない宣言をしたとはいえ、貴族の毒殺癖はすぐには治らないので、皆のご飯作りはやめられないのだ。そして、生きているラッセルの後宮と違って、亡きリチャードの後宮であれば、成人した王子であるルーファスも立ち入ることができる。

 だから私は毎日リチャードの後宮で、ルーファスも含めていつもの顔ぶれで、三食ご飯を食べていた。
 皆相変わらず、美味しい美味しいと、私の料理を食べてくれる。
 食べている皆も、作った私も、全員が笑顔でいっぱいだ。



「ルー」
「何? サンディ」
「20年後くらいかなぁ。この国から毒の風習が消えたら、私の村に行かない?」

 キョトンと目を瞬くルーファスに、私は笑顔でおねだりする。
 私が夜会で宣言して一年以上経ったけれども、やはりまだ完全に毒の風習が消えたとは言い難い。実際、森花ちゃんと水花ちゃんは大活躍だ。
 だから私が年単位で国を空けても大丈夫になってからにはなってしまうけれども、一度村に帰ろうと思っているのだ。
 そしてその時は是非、ルーファスも一緒に来てほしい。

「ちゃんと、ルーファスが生きているうちに、村に帰って報告したいなと思うの。私の好きな人ですって」
「僕も一緒に連れて行ってくれるの」
「もちろんよ。往復で20……ゲフゲフ、2年くらいかかると思うけど、一緒に来てほしいの」
「20……?」
「2年よ! 2年!」

 必死に取り繕う私に、ルーファスは優しい笑顔で応じてくれる。

「じゃあ、サンディが国を空けても大丈夫なように、頑張らないとだね」
「うん。期待してるわ、ルー。兄さんも言ってたんだけどね。うちの村の人達って、世界的に有名な身内に甘い戦闘民族だから、あまり長い間私が帰らないと、心配して探しに来ちゃうと思うの」
「……え?」
「ルーが頑張ってくれるなら安心ね。私を縛るような国などいらん! って、手のひら一押しで王宮を全壊させるような人達なのよね、あの人達」
「…………え?」
「肩の荷が降りたわ。私のせいで国家存亡の危機とか、嫌だったのよね。ありがとうルー、よろしくね」

 そう言って頰にキスを落とすと、ルーファスは目を白黒させながら、「え?」「サンディ、旧姓は?」「え、サンダーソン!?」と愕然としていた。

「急にサンダーソン!? なんなんだ、悩みが尽きない……」
「まあ、でもね。なんだかんだ迎えに来ちゃったら、対策はなくはないのよ」
「……対策?」

 期待の目で見てくるルーファスに、私は恥じらいながら、目線を彷徨わせる。

「だから、あの人達は、私が幸せならなんでもいい訳で……」
「うん?」
「ルーが私を好きでいてくれるなら、私は幸せなの。だから多分、大丈夫……」

 小声で呟く私に、ルーファスは満面の笑みだ。

「そういうのなら得意だよ。任せて」
「う、なんだか嫌な予感がする」
「とりあえず、10人くらい子供を作ろう。証拠固めは大事だよね」
「証拠固めで子作り!?」

 そんなことを言いながら、ルーファスは流れるような仕草で私を抱き抱えて、寝室に連れて行ってしまった。
 最近、ルーファスのスキンシップは本当に過剰だ。夫婦になったとはいえ、こんなに必要なものなのか。本当に本当に過剰で、睡眠不足で本当に困っているのだ。助けて、兄さん。



 結局、私はルーファスとの間に、8人ほど子を設けることとなってしまった。四捨五入で10人!


 そして、私という探知機がいたのがよかったのか、毒の風習は無事、10年くらいで廃れた。本当によかった。

 子供達は今、私の手料理じゃなくても、安心して食事を口にすることができる環境にいる。
 でも、ルーファスだけは相変わらず、私の手料理しか口にしない。

「お母様、なんでお父様はお母様の料理しか食べないの?」
「んー? なんででしょうね。お父様が甘えん坊だからかしら」
「甘えん坊!」

 娘達は、「パパは甘えん坊!」と言いながらルーファスにまとわりついてる。
 ルーファスはそれを、幸せそうな顔をして受け入れていた。


 最初は騙されて連れてこられた、この王宮。
 でも今は、特別で大切なもので溢れている。

 皆に幸せになれと言ったけれども、きっと私が一番幸せだなあと、私は今この時間をしっかりと噛み締めるのだった。







  終わり。

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