私だけのヒーロー
「わっ……⁉」
グラっと体勢を崩したのを引っ張った張本人が支えてくれたのはいいとして、なぜかそのまま抱き込まれている。
逞しい胸元に顔を押し付けられた状態になってしまい、微かな汗の匂いに混じって、いつも本庄さんがつけているシトラス系の香水が鼻腔をくすぐった。
体温を感じるほどの近い距離に、ぶわっと頬が熱くなる。
慌てて腕を突っ張り、腕の中から抜け出して顔を見上げると、本庄さんはにこやかな笑みを貼り付けて「監督がお呼びですよ」と早瀬さんに告げる。
「次のシーンの繋ぎの確認したいので、モニターチェックをお願いしたいそうです」
「あっそ」
同一人物を演じているので、全く同じスタイリングの本庄さんと早瀬さん。
なぜか空気がピリピリしていて、そのふたりに挟まれた私はすこぶる居心地が悪い。
本庄さんは笑顔のわりに目が笑っていないし、早瀬さんに至っては彼に良い感情を持っていないことを隠そうとすらしていない。
彼らの間でキョロキョロと顔を伺っていると、早瀬さんが「じゃあさくらちゃん。さっきの件、考えておいてね」とあからさまに私にだけ笑顔を向けて監督の方へ行ってしまった。