八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 朝、もふもふとしたものが鼻をくすぐって、クシャミを連発して目が覚めた。

 となりには、まだ寝ている椿くんのキレイな顔がある。

 長いまつ毛と高い鼻に見とれていると、子猫がピョンピョンと動き始めた。朝から元気だなぁ。
 ぼんやりする頭を働かせようと、机に飛び乗る子猫を抱き上げる。

 カシャン。
 足の爪にひっかかって、なにかが落ちた。

「シー、静かにね。椿くん、起こしちゃうから……」

 そう拾い上げたのは、椿くんの学生証ケースだった。
 前に藍くんと見ようとして、未遂(みすい)で終わった。椿くんの、好きな人の写真が入っているという……ウワサのケース。

 ダメダメ。人の大切な物を勝ってに見るなんて、非道徳的だよ。そう思うのに、知りたい気持ちも強くなる。

 椿くんは、まだ起きる気配がない。
 少しだけなら……心の中に住む悪魔が、ささやいた。

 えいっ!
 思いきって開いたケースの中には、学生証と小さな写真が入っていた。

 チェキで撮ったのであろうものには、女の子の字で名前も書いてある。

「……なんで?」

 後ろでむくっと起き上がる気配がして、あわててケースを机に伏せた。

「碧、おはよう」

 眠そうな声に、そのままの向きでおはようと返す。

 なにがなんだかわからない。
 写真には、【あおい】と書かれていた。見間違えるはずがない。

 どうして椿くんが、小学生の時のわたしの写真を持っているの?
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