八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 ついでだからと、南雲神社で参拝してから帰ることになった。

 一礼して、鳥居をくぐる。手水舎(ちょうずや)に着くと、水面に青や紫の紫陽花(あじさい)が浮かんでいた。

「……キレイ」

 身を清めながら、思い出す。
 この光景、前にも見た記憶がある。

 つないでいた手とはぐれてしまって、ここへたどり着いた。
 水あびをする花を初めて見て、感動したの。

 他にも、誰かいたような……よく覚えていないけれど。

 別の場所か、夢の中での話なのかな。

 だって、わたしはこの土地へ来たことはないのだから。

 お父さんとお母さんも、八城家へお世話になると決まったとき、そう言っていた。会ったこともない遠い遠い親戚だと。

 本殿で手を合わせて、来た道を戻る。

「ここへは、もう来られないと思ってた」

「どうしてですか?」

 静かに話す琥珀さんは、どこか寂しそうな目をしていた。

「六年前、一度だけ、この神社へ寄ったことがあるんだ。母の葬式のあと」

「そう……だったんですね」

 ズキズキと、胸が痛みだす。

 仏壇に飾られている写真でしか見たことはないけど、とても優しそうな人。

 八城家のみんなは、いつも明るくて賑やかだから、ときどき忘れてしまう。とてもつらくて、悲しい過去があったこと。

「マイナスな記憶しかなかったけど、上書きできた。アオイちゃんが、いてくれたから」
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