八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 頬に手が添えられて、くちびるに指が触れる。

 このシチュエーションは、あくまでも男同士の絵面のはずなんだけど! どうなってるの⁉︎

 頭がパンク寸前のところで、

「……これ、ついてた」

 ごしごしと口元が(ぬぐ)われて、わたしはポカンとする。

 見ると、椿くんの指先がきらりと光った。
 おそらく、給食で食べたシナモンパンの粉だと思われる。

「あ、ああ……ありがと」

 気が抜けて、壁へずるりともたれかかった。

 それだけのために、ためないでよ。
 呼吸すら危うくなるほど、まだ心臓がバクバクしている。

「じゃ、先に教室戻ってるから」

「……うん、お、おう」

 恋人同士でも恥ずかしそうな触れ合いを、顔色ひとつ変えずにするなんて。

 しかも、男子相手に。椿くんって、強者(ツワモノ)だ。

 背中を見送っていた視線をハッと下ろす。
 よかった、ちゃんと男子に戻ってる。
 とりあえず今は、このままであってくれないと困るの。

 アメリカへ行くまでの三ヶ月は、なんとしてもバレちゃいけない。
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