八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「ちなみに、まだ生きてるから」

「えっ、そうなの⁉︎ てっきり……ごめん」

 ハハッと笑って、椿くんが続ける。

「やっぱ勘違いしてた。もう年だから、福岡の伯父(おじ)さん家に引っ越しただけ」

「なんだ、よかったー。会ってみたいなぁ。椿くんのおじいちゃん」

 最後の階段を降りて、本殿を通らず遠回りをする。裏道を進み、手水舎(ちょうずや)のある表へ出た。


『六年前、一度だけ、この神社へ寄ったことがあるんだ。母の葬式のあと』

 琥珀さんの言葉を思い出す。

 あれ? さっき、椿くんはよく遊んだって……。兄弟って、藍くんのことだったのかな。

 手水舎の花が変わっていた。
 今日は、桜色と白の紫陽花。とてもキレイ。

 でも違う。この色は、覚えがない。
 この前に見た、青と紫の景色だけ記憶の片隅に残っている。

 どこで見たものだろう?

 手をつないで、本殿へ向かった。手を合わせて、お参りする。

 ーーみんなと、ずっと仲良くいられますように。それから、椿くんと、もっと仲良くなれますように。

 ふたつも願い事をして、よくばりだったかな。

 誰もいない夕方の神社。茜空が広がっていく。
 本殿の両脇に置かれている狛龍を見て、ふとよみがえる。

 そういえば、藍くんの持っていたお守りも龍だった。大事ものなんだって。

 椿くんが、ポケットから何かを取り出す。広げた手のひらには、緑の守袋(まもりぶくろ)があった。

「……そのお守り」

「母さんの形見なんだ」

 そのとき、頭の中がチカチカと光って、映像がフラッシュバックした。

 寂しそうな横顔。走り回った傷だらけの足。青と紫の紫陽花に、龍のお守りと指切り。
< 142 / 160 >

この作品をシェア

pagetop