八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「ーーっ!」

 みんなの息をのむ音がした。
 唇が触れるギリギリのところで止まっていて、少しでも背中を押されたら当たってしまうほどの距離。

 近い、近いって。
 ギュッとまぶたを閉じたら、その上に甘い感触が降ってきた。

 うわぁっ、椿くんの唇が……すごく恥ずかしい。

「……俺の方こそ、ごめん。嫉妬で、少しあせってたかも」

 つぶやくようなセリフに、ゆっくり目を開ける。
 こんなふうに、照れくさそうにして視線を逸らす椿くんは初めてだった。


「もう終わっていい?」

 釘付けになっていた安斎さんたちに向かって、椿くんがじろりとニラむ。

「め、めちゃくちゃいいです! お疲れさまです。ごちそうさまでした」

「ひゃわ〜、瞬きで記憶できるコンタクトを付けていないことが惜しまれます〜」

 ウキウキと帰って行く彼女たちを見届けて、二人きりの間に変な空気が流れる。

 これって、さっきのシチュエーションの続きってことで……いいんだよね?

 膨らんでしまった胸元を押さえながら、呼吸を整える。
 椿くんのおかげで、気付かれなくてよかった。

 ホッと肩の力が抜けると、ふわりと黒のカーディガンがかけられて、ボタンが留められる。
< 30 / 160 >

この作品をシェア

pagetop