八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「それってイヤリング?」

 後ろから琥珀さんに覗かれて、慌ててスタンドへ戻す。

「お母さんに、良さそうだなって」

 つい自分の世界へ入り込んでいた。
 その場を去ろうとしたら、琥珀さんがそのイヤリングを見ながら。

「アオイくんにも似合うと思うよ」

 一瞬、体がフリーズした。
 だって、あきらかに女ものだもの。それを、似合うと思うなんて、言われると思わないじゃない。

「僕は男だから、こんなの変ですよ」

 薄ら笑いを浮かべながら、店の奥へと歩いて行く。

 勘違いしたらダメだ。琥珀さんは優しいから、お世辞に決まってる。男姿のわたしには、必要ない。

 あとをついて来た琥珀さんは、肩をならべると不思議そうな目をした。

「アオイくん、知らないの? 今は、男だってオシャレする時代だよ。化粧水も使うし、マニュキュア付けてる人だっている」

「……たしかに」

 言われてみると、芸能人でも美意識の高い男の子は増えている。

「美は共通のファッション。だから、全然変じゃないよ」

 いつの間に持って来たのか、琥珀さんがわたしの耳にイヤリングを当てがった。
 鏡の中の自分は、思いのほか華やかに映っている。

 ちょっとその気になったけど、値段を見てそそくさと戻しに行った。

 三千円もする。買えない値段ではないけど、わたしにとっては高い。
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