八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「……え、ダメ」

 その日の夜。服や小物の入ったボストンバックを肩にかけたら、ベッドに座る椿くんが無表情でつぶやいた。

「えっと、でも約束しちゃったし」

 昼間のことを話したら、止められたのだ。
 たぶん、わたしがヘマをしないか心配してのことだろう。

「それもだけど、とりあえず荷物置いて」

 言われるままに、バックを床へ下ろしたら。

「出て行ったらダメ」

「でも、琥珀さんが……」

 やっと本の整理が終わったからと、今朝部屋の移動を伝えられた。

 それほど持ってきたものは多くないから、この身ひとつで動けるのだけど。

「ここにいたらいいよ。それとも、俺と一緒じゃイヤなの?」

「そ、そうゆうわけでは!」

 帰宅してから、少しふてくされていると感じていたのは、これが原因だったのか。

 学校では物静かでクールなイメージで通っているのに、こんな甘えた表情をするなんてズルい。

 子犬みたいで可愛くて、ほっとけなくなる。

「碧がいてくれると、嬉しい」

「そう……なの?」

 無言でうなずくと、椿くんはボストンをベッドの角へ追いやった。わたしの手が届かないように。

 椿くんって、たまにそうゆうところがある。
 大人っぽいのか、子どもらしいのかわからない。

「それと、彼氏のふりもダメ」
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