華夏の煌き
「おや、星羅」
「おじさまこんにちは。絹枝老師を待たせてもらってます」
「そうか。頭でも痛いのか?」
「いえ、痛いほどでもないのですが、昨日お酒を飲みまして……」
「ふふっ。酒か、どれ、少し診てあげよう」

 星羅の隣に、慶明はそっと座り、手首をとり脈を測る。

「まあ二日酔いではないらしい。女人特有の身体の調子によるものかもしれないな」
「ありがとうございます。医局長のおじさまに診察してもらえるなんて光栄です」
「それにしても、星羅は酒が飲めるのだな。晶鈴は酒を飲まなかったが」
「へえ。そうなんですかあ」

 慶明は遠い空を眺めながら晶鈴のことを話す。

「晶鈴は頭痛持ちだったから、もしかしたら君もそうかもしれない」
「うーん。どうなのかなあ」
「もう少し診ておくかな」
「え、いいですいいです」
「身体は大切にせねば、ほらここに持たれてごらん」

 慶明は自分の身体に星羅を抱き寄せるように、身体を預けさせる。星羅は言われるまま横向きになり顔を彼の胸に埋める。慶明は背中をとんとんと触診していく。

「おじさま、なんだか心地よいです」
「そうかね? 今度は前を向いて喉をみせてごらん」
「はい」

 口を開き喉の奥を見せる。

「綺麗なのどだ」
「よかった」
「少し胸元を開いてごらん」

 素直に帯をゆるめ、胸元を緩める。慶明は首筋を撫で、鎖骨に指を這わせ、なだらかにふくらみはじめる胸元にトントンと人差し指で叩く。

「健康的な身体だ」

 医局長の彼に言われると、とても安心だと星羅が思っていると「奥様のお客様が帰られましたよ!」と大きな声が聞こえた。
 振り返るときつい顔をする春衣が立っている。

「そうか。ではこれで、何かあったらすぐに相談するんだよ」
「おじさまありがとうございます」

 慶明がさっと立ち去った後、春衣も後をついていった。星羅は着物を直して絹枝の書斎へと向かうことにした。


 慶明の後を付いて行きながら、春衣は苦々しい思いを抱く。厩舎を通った時に、星羅の馬がつながれているのがわかった。星羅の馬は、慶明が軍師見習いの試験に受かったお祝いに彼女に与えたものだ。美しい栗毛をもち額に白い模様がある。その模様が星のようであるということでその馬を選んだ。気性はおっとりしていて人懐っこいので、星羅は『優々』と名付けている。

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