華夏の煌き
 杏華公主が亡くなると、年功序列で決まる次期後継者は星羅になる。そのことを慶明は誰にも言うつもりはない。王太子の曹隆明も公言することはないだろう。ただ隆明が王になった時、胡晶鈴が王妃、星羅が王太子になればこの王朝の心配はないだろうと夢を見る。きっと隆明も同じ気持ちだろう。

「ああ、そうそう。今度軍師助手に上がってきた朱星羅というものを知ってるかしら?」
「え?」

 いきなり星羅の名前が挙がり、慶明は思わず申陽菜を凝視してしまう。華奢で可憐な容貌の申陽菜から出る言葉は、鋭く冷たい。

「そのものが何か?」
「どうも見習いの時から、隆明様が気に入ってるらしいのよね。男だとばかり思っていたら女子じゃないの」
「はあ」
「ちょろちょろ目障りなのよね。代々軍師の郭家の息子と一緒に呼び出しているけど、なんだか見過ごせないわ」

 隆明は娘である星羅と一緒に過ごしたいのであろう。二人きりにならないように注意しながらよく会っているようだ。

「あたくしよりもあの娘と会っている時間のほうが長い気がするわ」

 申陽菜が星羅を煙たがっていることが分かった。これ以上機嫌を損ねると、申陽菜は星羅をもっと調べ上げようとするかもしれない。そうなると隆明も、自分も守ってきたものが崩れてしまう。
 咳払いをして慶明は静かに告げる。

「その娘ですがもうじき婚礼を上げるそうですよ」
「あら、そうなの? ふーん。人妻になるのねえ」

 とっさの嘘で慶明は、申陽菜の敵意を星羅からそらす。嘘とはいっても、妻の絹枝から相談を受けていた話だった。息子の明樹と星羅を結婚させたいと絹枝は希望していた。

「ええ、殿下がそのようなものと、いや、そうでなくても間違いを犯すはずはございません」
「まあいいわ。そうそう、最近顔にしみができてきたのよ。これもどうにかしてちょうだい!」
「次回までに何か用意しておきます」
「下がっていいわ」
「はい」

 毎回、美容に関することで注文を付けられて帰る。隆明の妃の中で一番、身なりと美容に気を配っている申陽菜だが、その努力は残念ながらあまり効果的ではなかった。


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