華夏の煌き
 慶明は医局に帰る前に、兵士の訓練所に向かう。静かな医局と違い、門の外からでも男たちの掛け声や怒声が遠くからでも聞こえてくる。門番の大男に、息子に会いに来たと告げ、身分証を見せるとすぐに通された。慶明は医局長ともあって、移動には輿を使っている。数名の男に運ばせている様子を見れば、彼の身分はすぐにでもわかるので、身分証を見せることは単に形だけだった。

 息子の陸明樹は順調に上等兵になっており、部下の訓練に勤しんでいる。訓練中なので胸当てくらいしか身に着けていないが、槍を振り回し、藁人形を突く姿は英雄の風格があった。久しぶりに見る息子の姿に感心して、しばらく訓練を黙って観ていた。そのうち兵士の一人が慶明に気づいたようで、明樹に話しかけた。慶明と明樹はよく似ているので、兵士たちにはすぐに慶明が父親だとわかったようだ。槍を部下に預けて明樹は走ってきた。

「父上。どうしたのですか? わざわざこんなところまで」
「いや、特に急ぎではないが、最近話していない思ってな。顔を見に来ただけだ」
「へえ。珍しいですね」
「まだまだ訓練中か」
「もう終えられますよ」
「そうか」
「一体何の話ですか?」
「うむ……」
「今日はまっすぐ帰りますよ」
「わかった。では、あとで」

 慶明は活気のある訓練所を後にした。明るく活発な明樹は部下にもよく慕われているようだった。武芸もなかなか達者なようだ。我が息子ながら、明樹であれば星羅を任せられると慶明は考えている。


72 縁談
 朱家では久しぶりに家族4人揃い、夕げの席では会話が盛り上がっていた。星羅が軍師見習いから助手に昇格する間に、兄の京樹はすでに教官になっていた。養父の彰浩もその腕を見込まれ、成形の主任となっている。夫と子供たちの話を、京湖は嬉しそうに聞いている。

「華夏国は女人の進出が目覚ましいのね」
「かあさま、西国の女人は違うの?」
「家事しかしないものなの。外に出ることは許されないわね」
「かあさまも外で仕事をしたい?」
「ううん。私は家事が好きよ。若いころは家事すらしたことがなかったのだから」

 ふふっと笑って京湖は立ち上がり、星羅を後ろから抱きしめる。彼女はスキンシップが好きで、感情が高ぶると側にいるものを抱きしめるのだ。

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