華夏の煌き
 二匹とも徳樹を驚かさないようにしているのか、静かにじっと見つめる。徳樹のほうが好奇心が強いようで背の低いロバの明々に手を伸ばす。

「あらあら、明々を撫でたいの?」

 手本を示すように、星羅は優しく明々の鼻面を撫でる。明々が嬉しそうに鼻を鳴らすと、徳樹も小さな手でそっと明々に触れた。明々は目を細め、また嬉しそうに鼻を鳴らす。隣で馬の優々が、待ちきれないといったふうに「ヒヒンっ」と鳴き前足を鳴らす。

「はいはい。こんどは優々よ」

 艶やかな優々の首筋を撫でると、徳樹も手を伸ばす。

「あっ!」

 小さな手が優々の首の毛を握りこんでしまう。優々はじっと耐えていた。

「優々。ごめんね、痛かったわね」

 徳樹の手を開かせ、むしられかけた毛を撫でつける。

「ヒンッ」

 優々は平気だというように啼いた。優々は名前通り気性の穏やかな馬でとても優しい。

「もう少ししたら一緒に乗せてね」

 星羅のお願いを優々は承知したようだった。明々と優々に会って徳樹はご機嫌になっている。あうーとか、まうーなど喃語が盛んに発声されている。それに呼応するように、明々と優々も優しい鳴き声を出す。

「ふふっ。仲良しになったのね」

 一人と二匹の会話を楽しんでいると、京湖がやってきた。

「ここにいたのね」
「どうかしたの?」
「お客様よ」
「わたしに?」
「ええ、お祝いに来てくださったの。おなじ軍師助手の郭蒼樹さんよ」
「ああ、蒼樹が。今行くわ。じゃあね」

 名残惜しそうな3人組だった。

 朱家は陸家とも郭家ともちがい高い塀も門もなく、木の柵と防風林で囲まれている。無造作に止められている郭家の馬車は、明らかに朱家のものではないことがわかる。

「馬車も立派ねえ」

 しっかりとした造りは、今風の飾りや派手な布地などは使われておらず堅牢そうだ。弓矢が飛んできても防げるだろう。権力や富の象徴を馬車や輿で表されることが多いが、郭家はやはり実を取るようだ。ある意味護送車のようでもある。
 繋がれている馬は遮眼帯がつけられている。少し視界を狭くして走ることに集中させられているようだ。徳樹が馬に反応して「あまー」と手を伸ばすが、郭家の馬はきっと他人を触れさせることはないだろう。

「だめだめ。蒼樹がいるときにしましょう」

 徳樹をなだめ、星羅は家に入った。

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