華夏の煌き
 小さな客間では2人腰掛けている。一人は郭蒼樹だがもう一人は女人だった。

「お待たせ」

 星羅が声を掛けると郭蒼樹が振り返り「やあ。元気そうだな」と立ち上がる。

「ありがとう。どうぞ、座って座って」

 郭蒼樹が立ち上がるともう一人の女人も立ち上がり、優雅に腰を落とし「初めまして」とあいさつをする。星羅よりも数歳若いだろうか。あどけなさと利発さが同居する複雑な年頃の少女のようだ。シックな装いの郭蒼樹とは違い、娘らしく薄紅色の明るい色彩の着物だ。髪はまだ結い上げておらず長い髪を自由にさせている。

「俺の従妹だ」
「柳紅美と申します。よろしく」

 親戚とはいえあまり顔立ちは似ておらず、クールな容貌の郭蒼樹と違い、血気盛んで精力的な強い瞳をしている。

「朱星羅です。この子は徳樹です」

 2人に徳樹を見せる。徳樹はすでに寝息を立てていた。籠の中にそっと徳樹を入れ、星羅も腰掛ける。

「本当は一人で来ようと思ってたのだが紅妹が一緒に行きたいとうるさくてな」
「蒼にい。一人で女人のもとに訪れるのは世間体があるからついてきてあげたんです」
「わかったわかった」
「わざわざありがとうございます」

 星羅が柳紅美に頭を下げるが、彼女はにこりともせず口早に「別に」と答える。

「紅茶をどうぞ」

 京湖が茶を運んできた。

「桂皮は好き嫌いがあるだろうからお好みでどうぞ」
「ありがとうございます」
「かあさま、ありがとう。後は良いわ」
「なにか御用があれば呼んでね」
「ええ」

 京湖が去ると柳紅美が「桂皮なんかどうするの?」とシナモンスティックをつまんで目の前で振る。

「ああ、それは紅茶に入れて何度か掻きまわすの」
「どれどれ」

 郭蒼樹は言われるように匙のようにかき混ぜ、とりだしてから一口飲む。

「ふーん。香り高くなるのだな」
「ええ、西国ではよく飲まれているみたい。ここに乳と砂糖を入れると格別なのよ」

 異文化に触れ興味深そうな郭蒼樹をよそに、柳紅美はやけに否定的だ。郭蒼樹のシナモン紅茶の香りをかぎ、顔をしかめる。

「ちょっときつすぎるわ。繊細な漢民族には合わないと思うわ。下品な飲み物ね」
「紅美!」
「あら、ごめんなさい」
「いえ、いいの。確かに飲みなれていないときついわよね。桂皮なしで召し上がれ」 
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