華夏の煌き
 扉は開いていて、ひらひらと何枚もの鮮やかな荒い布が垂れ下がっている。手でくぐり中に入ると、やはり華夏国と違う明るい色合いの机と椅子が並んでいる。壁には極彩色で描かれた、象や孔雀、人物画などが飾られている。

「ちょっとおらは落ち着かねーぞ」

 腰掛ける許仲典は珍しく緊張気味だ。この西国の色合いが肌に合わないのだろう。

「そう。たぶん華夏国民なら慣れないかも。あたしは家族が西国人だから結構平気」
「目がチカチカするだ」

 客は他におらず二人きりだ。座ってしばらく経つと店の女がやってきた。年配のふくよかな女が「あら、こんな時間に珍しいわね」と星羅の肩に手をかける。

「ああ、すまない。営業時間じゃなかったか?」
「そういうわけじゃないんだけど、この時期、この時間にお客はめったにないのよ。ご注文は?」
「カリーとナンとチャイを」
「あら、珍しい」
「え、みんな何を食べるんだ?」
「いいえ。注文はみんなカリーとチャイだけど、華夏国の人はナンをあまり頼まないのよ」
「そうなのか」
「それと、発音が綺麗だわ」
「それはどうも。この店は開店して何年になる?」
「20年越したところよ。じゃ、お待ちになってて」

 長年開店しているこの店に、特に怪しいうわさなどない。新しくぽっと出の店などは、盗賊の根城になっていることもあるが、その場合すぐ噂に上るので店自体もすぐに解体される。
 運ばれてきた咖哩はふんだんにスパイスが使われ、食欲を刺激する。美しい輝くような黄金色のナンは香ばしい香りを放つ。

「おらあ、初めてだ!」
「さ、熱いうちにどうぞ」

 女は星羅の隣に腰掛け食べる様子を眺める。

「いや、隣につかなくていい」
「あら、最近そういう人が多いのねえ」
「そういう人?」
「ここは宿屋でも食堂でもあるけどね。男に楽しんでもらう店でもあるのよ? この前も食事だけの男が何回か来たわね」
「ふーん」

 その男はきっと明樹だろうと星羅は推定する。咖哩を一口頬張った許仲典が「んん?」と変な声を出す。

「お口に合わないかしら?」
「いや、そうじゃねえんだが」
「仲典さんには刺激が強い?」

 星羅も一口放り込む。確かに何か舌に違和感を感じる。許仲典は手を付けるのをやめている。なんだか食べ進めることに不安を感じる。

「あの、香辛料は何が使われてる?」

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