華夏の煌き
起きて見回し、明樹の部屋だと思い出す。起きだして美味そうなにおいがする台所のほうへ向かう。大きな身体の許仲典がかまどで何かを煮炊きしていた。
「仲典さん、何か作ってるの?」
「ああ、起きただか。もう出来上がるからそこに座るといい」
星羅が席に着くと、許仲典は深鉢を机の真ん中に置いて、小皿を出した。
「美味そうな角煮だね。すごい。仲典さんは料理が上手いんだな」
「いやあ、いい豚が手に入ったから、ちょっと煮込んだだ。さあ、熱いうちに」
「うん」
熱い肉の塊は口の中で柔らかくほぐれ消えていく。まるで許仲典その人のように、料理は星羅に優しくさりげなくしみ込んでいく。それと同時に明樹のことが心配になる。
「ちゃんと食べているんだろうか」
「きっと食べてるさ」
「だと、いいな」
「ほら、もっと食べろ? 旦那さんを探すのに体力いるぞ」
「そうだね」
回復を感じた星羅は、まず家の中を調べる。小さな家は土間の台所と3つの部屋があり、特に何か変わった様子はない。おそらく寝に帰ってきているだけであろう。着るものと書物が少しあるだけだ。何の手がかりも得られないので、西国領土になる国境付近の店を尋ねることにした。
門番に事情を話し、星羅は自分の通行証を見せる。若い門番は軍師である星羅に恐縮して通行を促す。
「あの、夫に何か不審な様子はなかったかしら?」
門番の若い男はうーんと首をひねり記憶をたどる。
「なんでもいいの。些細なことで」
「ああ、そう言われると、陸副隊長は行きは明るく話しかけてくれるのですが、お帰りの際は無言で誰にも声を掛けずにお帰りになってました」
「無言で……」
きさくな明樹が無言で門を通り抜けるのはおかしい。店の場所を聞き星羅は、許仲典とともに向かう。華夏国を覆う長城沿いの一本道を進みすぐに店は見つかった。長城を抜け、西国の領土になると途端に砂漠地帯が増えているので星羅は驚いた。日差しが強く、空気も乾きカラッとして熱い。西国の端であるが、京湖の生まれ育った国なのだと思うと感慨深い。
「ここね」
漢字で『美麻那』と看板に書かれた店を見つける。看板がなくてもこの店一軒しか周囲にはないのですぐにわかるだろう。
少しでも明樹の形跡を見つけようと、星羅は意気込んで店の中に入った。
89 『美麻那』
「仲典さん、何か作ってるの?」
「ああ、起きただか。もう出来上がるからそこに座るといい」
星羅が席に着くと、許仲典は深鉢を机の真ん中に置いて、小皿を出した。
「美味そうな角煮だね。すごい。仲典さんは料理が上手いんだな」
「いやあ、いい豚が手に入ったから、ちょっと煮込んだだ。さあ、熱いうちに」
「うん」
熱い肉の塊は口の中で柔らかくほぐれ消えていく。まるで許仲典その人のように、料理は星羅に優しくさりげなくしみ込んでいく。それと同時に明樹のことが心配になる。
「ちゃんと食べているんだろうか」
「きっと食べてるさ」
「だと、いいな」
「ほら、もっと食べろ? 旦那さんを探すのに体力いるぞ」
「そうだね」
回復を感じた星羅は、まず家の中を調べる。小さな家は土間の台所と3つの部屋があり、特に何か変わった様子はない。おそらく寝に帰ってきているだけであろう。着るものと書物が少しあるだけだ。何の手がかりも得られないので、西国領土になる国境付近の店を尋ねることにした。
門番に事情を話し、星羅は自分の通行証を見せる。若い門番は軍師である星羅に恐縮して通行を促す。
「あの、夫に何か不審な様子はなかったかしら?」
門番の若い男はうーんと首をひねり記憶をたどる。
「なんでもいいの。些細なことで」
「ああ、そう言われると、陸副隊長は行きは明るく話しかけてくれるのですが、お帰りの際は無言で誰にも声を掛けずにお帰りになってました」
「無言で……」
きさくな明樹が無言で門を通り抜けるのはおかしい。店の場所を聞き星羅は、許仲典とともに向かう。華夏国を覆う長城沿いの一本道を進みすぐに店は見つかった。長城を抜け、西国の領土になると途端に砂漠地帯が増えているので星羅は驚いた。日差しが強く、空気も乾きカラッとして熱い。西国の端であるが、京湖の生まれ育った国なのだと思うと感慨深い。
「ここね」
漢字で『美麻那』と看板に書かれた店を見つける。看板がなくてもこの店一軒しか周囲にはないのですぐにわかるだろう。
少しでも明樹の形跡を見つけようと、星羅は意気込んで店の中に入った。
89 『美麻那』