華夏の煌き
 星羅は亡き夫明樹の墓に参り、再婚することを報告した。夫の父親の陸慶明と母親の絹枝に話すと、二人とも賛成してくれた。亡くなった理由が理由だけに、星羅を陸家に縛り付けておきたくはなかった。もちろん、実家だと思っていつでも来てくれたらよいと歓迎もされる。西国にいる、朱家も賛成してくれるだろう。
 一人で住んでいた小さな家を片付け、郭蒼樹の屋敷に住まう。結婚式はごくごく身内の者たちで質素にとり行う。見慣れた顔ぶればかりで、仕事関係が家族関係に変わるのかと不思議な気分だった。

 軍師省にあいさつに2人で回ったが誰も二人が夫婦になったことを驚くものはいなかった。ただ一人、財務省の袁幸平だけが非常に悔しがる。

「郭殿! ひどいじゃないか!」
「何がですか? 袁殿」
「星羅さんを狙っていたのがわかっていたはずだ。全く!」
「袁殿はほんの数か月でしょう? 俺は10年以上星羅を想っていましたよ」
「じゅ、10年……。よくもまあそんなに待てたもんだ」
「軍師は最後まであきらめないものです。俺は袁殿に感謝しています。本当はもっと時間がかかると思ってましたから」
「な、なに!?」

 蒼樹は気が長い性質ではないが、袁幸平と胡晶鈴の言葉がなければ、まだまだ星羅を得る時期を見計らっていただろう。

「袁どの。色々お誘いいただいてたのにすみません」

 星羅が謝ると、袁幸平は「いや、いや、どっちみち手ごたえがなかったしね」と力なく手を振る。

「あーあ。星羅さんなら私も落ち着けると思ったのになあ」

 肩を落としてがっかりして去る袁幸平の後姿に「申し訳なかったな」と星羅はつぶやく。

「気にしなくていい。袁殿は立ち直りが早いのだ。次に会う時にはもう別の女人に入れあげているだろう」
「それならいいけど」

 結婚したとはいえ、二人の仕事に変化があるわけではなかった。飢饉によって南下してきた人々をどこへ定住させるか。または戻すか。地方によって影響の大きなところと小さなところがあるため、国からの援助をうまく采配する必要がある。農業に従事する者への報償や助成。殺伐として一触即発の地域への軍の派遣。やることが山積みだった。

「お茶でも飲む?」

 持ち帰った仕事が片付いたので星羅は、書き物をしている蒼樹に声を掛けた。

「ん、もうちょっとで終わるから酒でも飲みに行こう」
「いいわ」

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