華夏の煌き
 下女から聞いた話をこの老女に伝えているのだろう。ここで普通なら夫や子供の相談に来たことが分かったと驚くのだろう。下女を使って情報をとりだし、誘導尋問によって当てていこうという方法なのだと晶鈴は悟る。

「あの、これから幸せな生活が送れるでしょうか?」

 ついつい漠然としたことを聞いてしまう。老女はしめた、という顔をする。おほんと咳払いすると「そなたの心がけ次第じゃ」と恭しく告げる。

「心がけとは?」
「自分より貧しいものがいたら施しをするとよい。徳につながるのでな」

 そのあと、商売には北東へ行くとよいとか、南の温泉には子を授かる効果があるなど教わった。礼を言い、銀貨二枚を支払って晶鈴は外に出た。
 下女がさっき恰幅の良い男に言っていたそのままのセリフを晶鈴に告げるので、晶鈴も男と同じように銅貨を渡した。

「相談する人はどれくらいいるの?」
「えーっと他の町の占い師は月に5人くらいでしょうけど、うちの先生は少なくても三日に一人は来ますよ」

 格の違いを見せるような言い方で下女を余裕のある態度をとる。月に5人でも十分な報酬になるが、ここの老女は評判通りよく儲けているようだ。

「これくらいでやっていけるのねえ」
「ん? なにか?」
「いえいえ、お世話になりました」

 頭を下げて立ち去った。占い師の老女は悪人ではなかったが、ただの話相手のようだった。

「そういえば、暗くてわからなったけど何か道具は使っていたのかしら?」

 何か道具を使えば、もう少し当たるだろうにと晶鈴は肩をすくめた。


 夕暮が広い平野を赤く染め始めた。

「今度の町はどうかしら」

 ロバの明々が鼻を鳴らす。

「あらあら、もう旅は嫌かしら」

 遠くない先では出産が待っている。そろそろ落ち着いて、子供との生活の基盤を作らなければならない。

「そろそろ落ち着けるといいわね」

 優しく鼻面を撫でると明々は嬉しそうに目を細めた。

18 宮中にて

 薬師の陸慶明は今回開発した新薬によって順調に出世していた。薬師長について、王族の診察にも同行することが可能となった。

「慶明でも緊張することがあるのだな」

 薬師長の田豊成が白いひげを撫でながらからかうように慶明を見る。

「それは、そうでしょう。初めて王太子の私室に参るのですから」
< 36 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop