華夏の煌き
 鑑賞され満足する彰浩に慶明は尋ねる。

「どうしてこんなにいろいろな作風なのですか?」
「移動先で手に入れた材料を使うからです」
「なるほど」

 彰浩は、行った先々で粘土を求め、釉薬になる木灰や顔料を手に入れ、簡易窯で焚いてきた。そのため、焼き閉まる鉄分の多い土や石質の磁器などいろいろなタイプの焼き物になった。それでも造形は彰浩の誠実な性格が表れているのだろうか。触り心地は優しく温かい感じがする。

「どうだろう。都の郊外に官窯がある。暇だったらそこで時間つぶししてもいいと思うが。ああ、勿論うちでのんびりしてもらって構わない」
「官窯! そんな政府御用達しの陶工場に!?」
「この腕ならいいでしょう。良ければすぐにでも推薦状を書くから」
「それは、願ったりです」

 彰浩は二つ返事で了承した。彼の家は代々陶工だったが、庶民の雑器をつくるいわゆる民窯だ。宮中で使われる陶器や、儀式用の祭器を作ったことはなかった。逃亡生活であることをうっかり忘れるぐらい、彰浩は官窯での仕事に心を躍らせた。

 星羅と京樹の手を引いてやってきた京湖が「なんだか嬉しそうね」と彼女も明るく微笑んだ。彰浩が明るい顔を見せるのが京湖はとても嬉しい。晶鈴のことや京湖の身の上のことを思うと心から喜べない二人だった。

「うちにいてもらっても良いが、気を遣うのでしたらどこか空き家でも探しましょう」
「そうね。ここにいつまでとどまれるかわからないけど……」

 男が追ってくるのではないかと思うと、安住することはできないと京湖は顔を曇らせた。

「さすがに都までは追ってこられますまい。役人に顔も効きますから安心していいですよ」

 慶明の言うとおりに都で保護された京湖を拉致することは難しいだろう。ここまでやってきて彼女をさらうものなら外交問題にも繋がりかねない。この国の民として生きていけば安泰だと思われる。

「辺境のほうが中央の目が届きませんからね。都におられるのが宜しかろう」

 彰浩と京湖は、慶明の勧め通りに都に落ち着くことにした。
 

33 資質
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