華夏の煌き
「これが一番高価です」
二番目にもう一人の娘が四角いメノウを指さす。
「これが一番美しいです」
ぼんやりしている晶鈴に陳老師が尋ねる。
「君はどうかね」
「これが」
「これが?」
「えっと気持ちがあります」
すべすべして滑らかだが河原で拾ったような石を晶鈴は指さした。
「気持ち?」
「はい。なんか石にもしたいことがあるというか……」
まだ語彙の乏しい彼女はうまく説明ができなかったが、陳老師は目を細めて喜ぶ。
「うんうん。石は意志に通じる。よかったよかった。このような遠方まで来たかいがあったわい」
こうして晶鈴は、将来、国家に仕えるべく占い師見習いとして中央に向かうことになった。伯父夫婦や兄妹たちに別れを告げるが、お互いに感傷的になることはなかった。陳老師から多少の金銀を受け取り、伯父は丁重に頭を下げる。
「身体に気をつけてな」
「おじさん、おばさん、みんな、さよなら」
「元気でね」
平坦な感情であいさつを交わし、晶鈴は、陳老師とともに馬車に乗り込んだ。
「辛いか?」
「特に、辛くはないです」
「では、嬉しいかね?」
「さあ……」
感情的なことを問われても、よくわからなかった。毎日、同じ生活を繰り返し、何かを考えることも感じることも特になかった。貧しい村ではなかったので飢えることもなく、邪険にされることもなく自分の役割を黙々とこなして生きてきた。環境が変わることが、晶鈴にとってどんな変化が訪れることなのか想像もつかなかった。
「自分がどうして生まれてきたか。自分の天命など考えてきたことがあるかね?」
「テンメイ……?」
全く聞いたことのない言葉だったが、少し心に響いた。不思議そうな様子に陳老師は優しいまなざしを向ける。
「占い師は感情的にならず、思いこむこともないほうが良い。時間はたっぷりある」
晶鈴には何もわからなかったが、とりあえず委ねるしかないので考えることはしなかった。ただこの草原の景色はもう見られないかもしれないと思ったので、馬車の窓から同じ景色を見続けた。
5 晶鈴の日常
二番目にもう一人の娘が四角いメノウを指さす。
「これが一番美しいです」
ぼんやりしている晶鈴に陳老師が尋ねる。
「君はどうかね」
「これが」
「これが?」
「えっと気持ちがあります」
すべすべして滑らかだが河原で拾ったような石を晶鈴は指さした。
「気持ち?」
「はい。なんか石にもしたいことがあるというか……」
まだ語彙の乏しい彼女はうまく説明ができなかったが、陳老師は目を細めて喜ぶ。
「うんうん。石は意志に通じる。よかったよかった。このような遠方まで来たかいがあったわい」
こうして晶鈴は、将来、国家に仕えるべく占い師見習いとして中央に向かうことになった。伯父夫婦や兄妹たちに別れを告げるが、お互いに感傷的になることはなかった。陳老師から多少の金銀を受け取り、伯父は丁重に頭を下げる。
「身体に気をつけてな」
「おじさん、おばさん、みんな、さよなら」
「元気でね」
平坦な感情であいさつを交わし、晶鈴は、陳老師とともに馬車に乗り込んだ。
「辛いか?」
「特に、辛くはないです」
「では、嬉しいかね?」
「さあ……」
感情的なことを問われても、よくわからなかった。毎日、同じ生活を繰り返し、何かを考えることも感じることも特になかった。貧しい村ではなかったので飢えることもなく、邪険にされることもなく自分の役割を黙々とこなして生きてきた。環境が変わることが、晶鈴にとってどんな変化が訪れることなのか想像もつかなかった。
「自分がどうして生まれてきたか。自分の天命など考えてきたことがあるかね?」
「テンメイ……?」
全く聞いたことのない言葉だったが、少し心に響いた。不思議そうな様子に陳老師は優しいまなざしを向ける。
「占い師は感情的にならず、思いこむこともないほうが良い。時間はたっぷりある」
晶鈴には何もわからなかったが、とりあえず委ねるしかないので考えることはしなかった。ただこの草原の景色はもう見られないかもしれないと思ったので、馬車の窓から同じ景色を見続けた。
5 晶鈴の日常