華夏の煌き
 父の慶明も、母の絹枝も明樹にはあまり口やかましくないようで、彼は自由気ままに明るい性格をしている。使用人頭の春衣が一番熱心にあれやこれやと世話を焼いているのだ。
 口笛を吹きながら部屋に戻る明樹を、春衣が追いかけて去っていった。

「誰に似たのか騒がしいわね、明樹さんは」
「いえ、明兄さまはご学友にも人気で、私たちのあこがれの人でもありますよ」
「あら、そうなの? 気づかなかったわ」
「剣術がとても見事で」
「まあまあ。本当に誰に似たのか……」

 インテリ家系のはずなのに明樹は学問よりも剣術、武術に秀でていた。将来は父親のように医局へ入るか、母親のように教師になるかと幼いころは期待されていたが、明樹本人は武官を目指している。

「今は大きな戦もないのにねえ」

 明樹が武官を目指していることを星羅も知っていて、彼の希望には肯定的な感情があった。絹枝は親の後を継がぬとも、せめて文官を目指してほしかった。幼いころに机に座らせすぎたのがいけなかったのかと、愚痴をこぼす。

「きっと明兄さまには、絹枝老師のようなかたが奥方になるんですよ」

 絹枝の気持ちを慮って前向きな意見を述べる星羅に、その手があったと絹枝は顔を明るくした。

「そうね、そうね」

 目の前の学問に熱心で素直で明るいこの少女がいると絹枝がひそかに考え始めたことを、星羅は何も気づかなかった。
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