華夏の煌き
「大きくなったわね」

 夫の陸慶明が医局長になってから、あらたに大きく屋敷を建設した。広い庭に色とりどりの草花に、流れる小川と珍しい魚が遊ぶ池。絹江は屋敷が大きくなり調度品が立派なものに変わっても、結局自分の書斎と食卓にしか赴かない。夫婦の寝台はこの屋敷になってから別になっている。客間も増えたが、どこに何があるのかよくわからず、使用人頭の春衣にまかせっきりなのだ。使用人も増えているが顔も名前をあまり把握していない。

「そういえば春衣は昔、反抗的な感じだったけど最近は丸くなってきたのかしらね」

 彼女にこそいい縁談話はないかしらと絹枝は考え始める。春衣が慶明に恋心を抱いていることなど、つゆほど知らず誰かいい人はいないかと知り合いを思い浮かべるが、いなかった。基本的に学問にしか興味を持つことがないので、俗っぽい人付き合いをしていないのだ。それこそ、慶明にあたってみるべきで、春衣にいい縁談があるか占ってみてもらえばよい。
 長い廊下を考えながら歩くだけで、柱の美しさや格子の窓の洗練された幾何学模様を、何一つ見ずに書斎に入る。

「あら?」

 庭の植木が一斉に植え替えられていることには気づかないのに、自分の筆立ての位置が違うことに気づく。誰かが掃除にでも入ったのかと周囲を見たが、昨日、削った竹簡のカスが床に落ちたままになっているのを見つける。

「気のせいかしらね」

 ここのところ天候があまり良くないせいか、頭が重いので気のせいかと気にしないようにした。

42 不調
 京湖の優しく置かれた肩の手に気づき、星羅はハッと目を覚ました。

「どうしたの? うたた寝なんかして。なんだか顔色が悪いわ。もう寝台で寝なさい」
「あ、ん。なんか眠くなっちゃって」
「書物の読みすぎで目が疲れてるんじゃないの?」
「そんなことないわ。今日も馬に――」
「馬? 馬に乗ってるの?」
「あの、ちょっと後ろに乗せてもらっただけ」
「本当? 危ないことはしないでね」
「大丈夫よ」

 心配そうな京湖に星羅は明るく返す。本当は馬で軽く遠乗りをしてきた。最近、陸家の息子の陸明樹に乗馬を教わっているのだった。京湖は、友人の胡晶鈴の忘れ形見のように星羅を大事に保守的に扱っている。そのため星羅は学問以外の、乗馬や剣術などのことを内緒にしていた。

「じゃあもう寝るわ」
「ええ、早くおやすみなさい」

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